INICIAR SESIÓN第7話 クズ男は口がうまくてな
蓮の眉間のしわは蚊を一匹挟み殺せるほど深かった。
「どこにある? 俺が人をやって取ってこさせる」
あんなもん、自分の手元に置いておかないと、安心して眠れやしない。明日何が起こるかわかったもんじゃない。
美月は変人を見るような目で彼を見た。
「そんなに焦ること?」
蓮は口元を上げて、笑っているのかいないのか微妙な表情で言った。
「クズ男は口がうまくてな。せっかく手に入れた相棒を、うまいこと言いくるめられちゃ敵わねえ」
「……」美月は言葉を失った。
クズ男って、あんたの友達じゃなかったっけ?
彼女はなんとも言えない表情で彼を見つめた。
「今晩は家に帰りたくないの」
帰りたいなら、こんな荒唐無稽な話に衝動的に乗ったりしなかった。
「場所を教えろ。俺が取りに行く。わざわざお前に足を運ばせたりはしねえ」
その言葉に、美月は大きな瞳をさらに大きく見開いた。
「どうやって取るつもり? まさか今夜のうちに、入籍するから戸籍謄本を出せって言うつもり?」
「場所だけ教えろ。あとは俺に任せとけ」
蓮は顎をくいと上げ、細長い目を細めた。
「それとも、お前の部屋は俺には入れねえ場所なのか?」
「……」美月は言葉を失った。
いいわ、じゃあどうやって取るのか見せてもらおうじゃない。
彼女は振り返り、鍵をつかんで放り投げた。
「左側のベッドサイドテーブル、一番上の引き出し。これが鍵よ」
蓮は手を伸ばして受け取った。
口元がほんの少し上がった。
「明日の朝、七時出発だからな」
そう一言だけ残して、彼は傲然と背を向けて去っていった。
「……」美月は言葉を失った。
彼女は思わず頭を抱えた。
この金、まだ返せる? なんだか狼の巣から虎の穴に飛び込んだ気がするんだけど。
「母さん、どういうことだよ? なんでこんなの投稿したんだ?」
瑛士は実の母親に殺意を覚えるほど腹が立っていた。
まだ彼女をなだめてもいないのに、こんなものを投稿するなんて。
桐生夫人の顔は一瞬で炭のように真っ黒になった。彼女はこの息子に本当に頭にきていた。
「あんた、私に当たるんじゃないよ! あの女に言いなさい! それに、これはあの女が私に投稿を迫ったのよ。あの子が持ってる写真……あんたの女遊びの写真なんだから」
ここで一途ぶったって、もっと早くそうしていればよかったのよ。
もちろん、これが今夜唯一の嬉しいことでもあった。
瑛士の薄い唇からは、一瞬で血の気が引いた。
彼の表情は信じられないといった様子だった。
「美月が俺にこんなことをするはずがない……」
「もういい加減にしなさい。あの女がいい子だと思ってたの? あの子はとんでもなくえげつないんだから」
瑛士は大きな打撃を受け、そのまま背を向けて外へ出ていった。その背中すらも、魂が抜け落ちたようだった。
彼は彼女に会いに行かなければ……彼女は怒っているから、こんなことをしたんだ。
別れも婚約破棄も、どちらも彼は受け入れられなかった。
瑛士が橘家へと向かうその一方で、蓮と翔太の車はすでに橘家の別荘の前に停まっていた。
「こんな風に、堂々と入るわけ?」
なんでよりによって、俺まで道連れにするんだ? 俺がいったい何をしたってんだ?
蓮は彼を横目で見て、冷たく鼻で笑った。
「鐘でも鳴らして入るか?」
「……」翔太は言葉を失った。
やっぱりお前とは絶交だ。
蓮は彼を蹴り飛ばした。
「インターホンを押してこい」
「……」
くそったれが。
彼は真っ黒な顔でインターホンを押しに行った。
蓮は車にもたれかかり、全身くつろいだ様子だった。
……
真夜中であっても、橘家の面々には眠る気分などなかった。
家族全員が居間に座り込み、美月の帰りを待っていた。
彼らは美月を桐生家まで引っ立てて、謝罪しに行かせるつもりだった。
橘紗枝(たちばな さえ)はもともと野次馬根性で見物していたが、さすがにそろそろ限界だった。
彼女は立ち上がった。
「あんたたちは待ってて。私は二階で寝るから」
柳原雅子(やなぎはら まさこ)は慌てて言った。
「じゃあ早く寝なさい」
紗枝はこの継母を相手にする気もなく、ちょうど二階に上がろうとしたその時、外からインターホンの音が聞こえてきた。
彼女の足がわずかに止まり、眉をひそめた。
……まさか、美月のあのクソ女が帰ってきたのか?
そうして、彼女も急いで二階に上がるのをやめた。
第278話 反省すべきは、そっちでしょう「つまり、雅もここにいるということ?」雨子はその話を聞き、少し意外に思った。――こんなところで鉢合わせするとは、本当に偶然だ。志織は思わず口元をへの字に曲げた。「そうよ。ちょうどあの美月を連れてきているわ」雅が美月をあれほどちやほやしている——その姿を思い出すだけで、志織は吐き気がした。――まったく、みっともない。姑が嫁をそこまで持ち上げるなんて、上流の奥様たちの間では聞いたこともない。相手がそれなりの家柄ならまだしも、美月のような連れ子ごときに、姑の体面も捨ててちやほやするなんて。笑い話にもならない。浅ましいにもほどがある。雨子の表情も、たちまち険しくなった。内心、不機嫌だったのだ。――雅は何を考えているのだろう。あの小娘まで、わざわざここに連れてくるなんて。まさか、あの小娘がこんな高級エステを利用できると思っているのか。ふん! 名家に嫁いだくらいで、身分まで上がったつもりかしら。猫に小判もいいところだわ。胸の奥に湧き上がった不快感が、雨子の上機嫌をあっさり吹き飛ばした。――雅はきっと、姑の寛大さをこれみよがしに見せて、良い姑を演じているのね。私を悪い姑に仕立て上げるつもりかしら。「あとで、ちょっと挨拶に行きましょうか?」――そうい
第277話 まるで長年の親友のように志織が料金を振り込むと、プラチナ会員カードはブラック会員カードに切り替えられた。それまでプラチナ会員カードに残っていた金額も、すべて新しいブラック会員カードに移された。店員は恭しくカードを志織に差し出した。「どうぞお受け取りくださいませ!」志織はカードを受け取った。さすがに高額な会員カードだけあって、手にした感触まで違うように思えた。それでも、胸中は複雑だった。たった一枚のカードに、一千万円もの大金をつぎ込んだのだ。志織は大きく息を吸い込んだ。――せっかくこれだけのお金を使ったのだから、それに見合った待遇を受けなければ損だ。彼女は顎を上げ、いかにも高貴な奥様らしい態度で告げた。「それじゃあ、さっきのコースを私にも手配してちょうだい」店員は志織の尊大な態度など気にも留めず、笑顔で応じた。「かしこまりました。お嬢様も同じコースでよろしいでしょうか?」「いいえ、娘には結構よ。生まれつき美人だし、まだ若いから、あんな本格的なケアは必要ないわ。基本コースで十分よ」母の言葉を聞き、茜は少し面白くなかった。――なぜ自分だけ基本コースなの?だが、母の表情を見れば、その理由は明らかだった。一千万円もの出費を惜しんでいるのだ。――たかが一千万円で、そこまで渋る必要があるのだろうか。
第276話 誰が払えないっていうのよそれを聞いて、雅は上機嫌になった。自分が褒められるより、ずっと嬉しかった。「そうでしょう! 本当に綺麗よね! やっぱりうちの嫁が一番だわ!」美月は思わず言葉を失った。「……」――他人が褒めてくれるのはともかく、身内まで一緒になって褒めちぎるとは。そのとき、店長も知らせを受け、慌てて駆けつけてきた。二人の前まで来ると、店長は満面の笑みで挨拶した。「雅さま、いらっしゃいませ! 本当にお久しぶりでございます! こちらが若奥様でいらっしゃいますね! なんてお美しいのでしょう!」そして、またしても美月を褒めちぎった。雅はすっかり気をよくし、口元が緩みっぱなしだった。ちょうどその頃、志織と茜も店に入ってきた。本当は今すぐ帰りたいところだったが、雨子と約束している。すっぽかすわけにはいかない。店長が雅にあれほどへつらっているのを目にし、志織はますます不愉快になった。店員は二人の来店に気づくと、当然のように接客に出てきた。しかし、目の前の光景を見れば見るほど、志織の不満は募るばかりだった。――なぜ雅のところには店長自らが出迎えるのに、自分たちはただの店員なのか。雅は志織たちを完全に無視して、店長を伴い、美月と一緒に施術室へ向かった。志織は、二人が二階へ上がっていくのを、ただ見送るしかなかった。
第275話 まるで本当の母娘のように雅も同じ気持ちだった。――まさか、こんなところであの二人に出くわすとは。まったく、運が悪いにもほどがある。雅は美月のほうに顔を寄せ、声を潜めて囁いた。「美月ちゃん、あの二人のことなんて気にしなくていいからね。もし何か言ってきたら、遠慮せずに言い返しなさい」――あんな奴らのために引き返すなんて、あり得ない。美月は絶句した。「……」二人は、そのまま志織たちの前を通り過ぎようとした。雅と美月を見た瞬間、志織はカッとなった。でも、人目があるから、ここで暴れるわけにはいかない。せいぜい、嫌味の一つを言ってやるくらいだ。「あら、これは雅さんじゃないの。どうしたの? お嫁さんを連れてエステに来たの? 偶然だね!」雅は志織を相手にするのも面倒だった。「あんたには関係ないでしょ! そこをどいて。邪魔よ」そう言い放つと、志織が反応する間もなく、雅は彼女を押しのけて進んだ。不意を突かれた志織は、よろめいた。幸い、隣にいた茜がすかさず母親を支えた。二人は当然、雅の乱暴な振る舞いに腹を立てた。しかし、当の雅はすでに店の中へ入ってしまっていた。志織は、顔が真っ赤になるほど怒っていた。――くそっ、よりにもよってこんなとこ
第274話 最悪の鉢合わせ茜はしばらく黙り込んだ。彼女にとって、あまりにも予想外の話だった。娘が何も答えないので、志織は思わず眉をひそめた。「どうしたの? 瑛士じゃダメなの? あれだけ条件のいい相手なのに。じゃあ、誰が好きなのよ?」茜の心は複雑だった。「でも、瑛士は優香と婚約を解消したばかりじゃない? 今すぐ近づくのはよくないと思う。それに、この話、瑛士は知ってるの? 私、優香と同じ目に遭いたくない」今や優香は、帝都の令嬢たちの社交界で完全に評判を落としていた。悪評どころか、誰もが眉をひそめるほどだった。名門・白井家の令嬢が、二人の男のせいでここまで惨めな目に遭ったのだ。周囲は彼女を笑いものにしながらも、自分たちも気をつけなければと身を引き締めていた。誰も、次の優香にはなりたくなかった。しかし、志織は娘の懸念など気にも留めなかった。「婚約を解消したんだから、もう関係ないでしょ? 別れてからどれだけ経ったかなんて、問題じゃないわ。まずは二人で接点を持てばいいのよ。うまくいけばそれでよし、だめならそのとき考えればいいじゃない」志織はわずかに眉を上げ、娘を挑発するように言った。「まさか、瑛士を振り向かせる自信もないの? 私の娘なら、そんなに頼りないはずないでしょ」茜は言葉に詰まった。「……」とはいえ、母の挑発はなかなか効いた。茜の表情が、少しずつ和らいでいった。――うちは桐生家には及ばない。
第273話 志織の目論見美月は彼を呼び止めた。「待って。十時から会議があるの。あなたも出てちょうだい」大沢はうなずいた。「分かりました。私から皆に伝えておきます」そう言って、彼はオフィスを出ていった。美月はもともと、グッズ事業は後回しにするつもりだった。でも、どうやら少し出遅れてしまったようだ。彼女はパソコンを開き、仕事に取りかかった。十時になると、美月は時間どおりに会議室へ入った。他の社員たちはすでに揃っていた。美月は上座に歩いていき、腰を下ろした。余計な前置きはせず、さっそく本題に入った。「剛、まずはクローズドβテストのデータを報告してちょうだい」名前を呼ばれた剛は、すでに準備万端だった。用意していたプレゼン資料を開き、報告を始めた。会議は三十分ほどで終了した。解散する際、美月は広告宣伝部の主任を呼び止めた。「佐野さん、明日の退勤時間までに宣伝案、直せる?」佐野は慌ててうなずいた。「できます!」「じゃあ、仕事に戻ってちょうだい」美月はそう言って、彼を下がらせた。彼女自身もオフィスへ戻った。十一時になると、美月は荷物をまとめ、少し早めに会社を出た。何しろ、